前回のあらすじ
150kgの元柔道家・玄照(げんしょう)は、東北への転勤・激務・暴食のなかで体が崩壊しはじめた。1日6リットルの異常な渇き、終わらない頻尿、鉛のような倦怠感——しかし健康診断の「要再検査」を毎年ゴミ箱に捨て続けた私は、それでもまだ「ただの疲れ」だと思い込んでいた。
「痒い」
始まったのは、何もかもが狂い始めていた、あの頃のことでした。
1. 酒だけが「忘れさせてくれた」
1日6リットルの喉の渇き。止まらない頻尿。どれだけ寝ても消えない倦怠感。
そんな地獄のような日々の中で、私にとって唯一「症状を忘れられる瞬間」がありました。
酒を飲んでいる時間だけ。
アルコールを胃に流し込み、脳が麻痺する感覚の中だけは、体の重さも喉の底なしの渇きも、一時的に消えてくれた。気のせいかもしれないとわかっていても、その「気のせい」に縋るしかありませんでした。
しかしこれは、医学的に見れば「自ら寿命を削る最悪の行為」でした。
前回お話しした通り、高血糖が続くと「浸透圧利尿」という現象が起き、尿に糖が大量に漏れ出すことで体の水分がどんどん失われていきます。ただでさえその脱水状態にあった私の体に、利尿作用の強いアルコールがさらに水分を搾り取り、血液をドロドロに煮詰めていました。
その瞬間の逃避のために、私は自らの首を力いっぱい締め上げていたのです。
それでもアルコールを使ってでも逃げたいと思う地獄の苦しみでした。
2. 決定的な異変は「あの痒み」
そんな破滅的な日々が続くある日、体にこれまでとは違う「明確な異変」が起きました。
股間に、狂いそうなほどの強烈な痒みが現れたのです。
最初は「暑いし蒸れたのかな」程度に思っていました。しかし痒みは日に日に悪化し、座っているだけで限界に近い苦痛になりました。仕事中も、商談中も、運転中も。頭の中は常にそこに向いていました。
ある日、仕事中にたまらずトイレの個室に駆け込み、恐る恐る自分のズボンの中を確認した私は——
血の気が引きました。
そこは炎症を起こし、熟れた果実のように膿み、凄惨な状態になっていたのです。
洗っても治らない。市販の軟膏を塗っても治らない。「これはただ事ではない」と本能が告げていました。
恥ずかしさと痒みに耐えながら、私はいてもたってもいられずに——近所の泌尿器科の扉を開けました。この痒いのをなんとかしてくれと心で(多分顔面も)叫びながら。
3. 泌尿器科での「事件」と、思いもよらない宣告
診察室に入ると、いかにもやっつけ感のある感じの悪いベテラン医師が座っていました。
「はい、じゃあ脱いで」
その一言を聞いた私は、極度の緊張と痒さのあまり——何を血迷ったか、ズボンから下着まで「下半身のすべての服」を脱ぎ捨て、診察室の真ん中で仁王立ちになっていました。
大柄の男性が、真昼間の病院で下半身を丸出しにしている、シュールすぎる光景。
医師は一瞥するなり、呆れたように言い放ちました。
「あんた、全部脱ぐ必要ないよ!」
後ろで女性看護師さんがくすくす笑っているのが聞こえた。新手のプレイかと思いましたが、私にその趣味はありませんでした。
⚪︎にたくなる空気感。シュールな診察室。まさに屈辱の極み。穴があったら絶対に入りたくない(丸出しだから)。
しかしその直後、医師の表情がスッと真剣になり——思いもよらない言葉を口にしました。
「……でも、これただの炎症じゃないよ。肥満だし長期間治らないなら糖尿病からの炎症ではないか。」
えっ?
股間が化膿していることと、糖尿病に何の関係があるのか。私の頭の中が真っ白になりました。
さらに医師は診察を終えるなり、こう付け加えました。
「ついでに、肥満体型も痩せた方がいい。炎症が治まったら走れ。」
——糖尿病の宣告と同じ日に、もう一つ「デブ問題」まで同時指摘。デリカシーも何もあったものではありません。走れメロスならぬ、走れデブ。本当の名医に出会うことができました。感謝すべきですがしていません(笑)
その日はボディブローで蹲ったところに、サッカーボールキックをもらった気分でくすくす笑われた看護師に大きな背中を小さくしながら帰りました。
4. 点と点が繋がった、帰り道の車の中
診察を終え、駐車場で車に乗り込んだ私は、スマホを取り出しました。
検索ワードは「糖尿病 症状」。
画面に現れた内容は——
- 異常な喉の渇きと多飲
- 多尿・頻尿
- 極度の倦怠感
- 細菌感染しやすく、感染症・化膿が治りにくい
すべての点が、一本の線で繋がりました。
なぜ「股間」が糖尿病を知らせるのか
私の股間を襲ったのは「亀頭包皮炎(きとうほうひえん)」でした。
高血糖が続くと、全身の免疫機能が低下します。白血球など、外敵と戦う細胞が正常に機能しなくなるのです。さらに糖尿病の高血糖状態では、腎臓が糖を再吸収しきれず尿に大量の糖が漏れ出します。この「糖たっぷりの尿」が排泄のたびに患部に付着することで、カビ(カンジダ菌)や細菌にとって絶好の「栄養の海」が生まれます。
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センターでも、血糖コントロールが不良な方は細菌や真菌に抵抗する力が弱くなり、感染症が重症化しやすいと明記されています。
免疫力が地に落ちた私の体において、股間でカビと細菌が爆発的に繁殖していた。市販の軟膏が効かなかったのも当然でした——根本原因(高血糖)が放置されている限り、表面だけ治療しても意味がなかったのです。
28歳への死の宣告
「水6リットルの渇き」も、「終わらないトイレ」も、「抜けない疲労」も、「股間の惨状」も——すべては糖尿病が私の体を内側から食い破っているサインでした。糖尿病症状のデパートです。
当時、私はまだ28歳。
「糖尿病なんて中高年がなる病気だろ」と思い込んでいた。学生時代に鍛えた心身に、限界などないと信じていた。毎年の健康診断の「要再検査」を見て見ぬふりしていた。
その「無知な怠慢」に、ついに現実が突きつけられた瞬間でした。
本来ならその日からジェダイマスターならぬ糖尿マスターとして生きていくことになったのです。
5. 自己流で治そうとするな。今すぐ病院へ
もしあなたが今、過去の私と同じような症状に悩んでいるなら——
- 異常な喉の渇きが続いている
- 頻尿・夜中のトイレが増えた
- 疲れがどうしても取れない
- 治らない痒みや化膿
この記事を笑い飛ばして、早く病院へ行ってください。(可能な限り、糖尿病専門医をお勧めします)
絶対にやってはいけないのは「ネットの知識だけで自力で治そうとすること」です。これは私が後に後悔することになった話にも繋がります。
糖尿病が疑われるほどの急激な症状が出ているとき、体は「火事」の真っ最中です。気合と根性で鎮火できるレベルではありません。打撲したり骨折した時の急性と同じです。折れたら真っ先に病院にいきますよね。
医師の診断を受け、薬の力も借りて「燃え盛る炎(高血糖)」を抑えること——それが命を守るための第一歩です。
次回は、この笑える絶望の底から私がどうやって立ち上がり、あの数値を叩き落としていく「反撃の準備編」をお話しします。
【医学的根拠】
① 過剰なアルコール摂取が高血糖・脱水を悪化させる
アルコールには強い利尿作用があります。脳下垂体に作用して抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑えることで腎臓からの水分排出を促し、飲んだ量以上の水分を体外に排出してしまいます。厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと糖尿病」では、過剰なアルコール摂取は高血糖をきたし、脂質異常症や高血圧などと相まって脳血管障害・虚血性心疾患の危険因子となることが明記されています。すでに浸透圧利尿による脱水状態にあった当時の私の体に、飲酒はさらなる脱水と血糖値悪化をもたらし続けていました。
参照: 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと糖尿病」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-013.html
② 高血糖による免疫低下と亀頭包皮炎(糖尿病性感染症)のメカニズム
高血糖が続くと白血球(好中球)などの免疫細胞の機能が著しく低下し、細菌や真菌(カビ)への抵抗力が弱まります。同時に、腎臓の再吸収能を超えた糖が尿中に漏れ出し、その「糖を含んだ尿」が亀頭や包皮に付着することで、カンジダ菌や細菌にとって絶好の繁殖環境が生まれます。亀頭包皮炎の受診をきっかけに糖尿病が発見されるケースは医療現場では珍しくなく、塗り薬だけでは根本的な改善は難しく、血糖コントロールが治療の鍵となります。国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「糖尿病と感染症のはなし」では、血糖コントロールが不良な方は細菌や真菌に抵抗する力が弱くなり、感染症が重症化しやすいと明記されています。
参照: 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「糖尿病と感染症のはなし」
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/070/01.html
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※本記事は著者の個人的な闘病体験をもとにしたストーリーです。糖尿病の症状・治療については必ず主治医・管理栄養士にご相談ください。運動療法については、健康運動指導士またはNSCA資格保持のパーソナルトレーナーへご相談されることをお勧めします。
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